48歳の抵抗

 

一体俺はあてのない遊びをするには、もう年を取り過ぎた。 あらゆる欲を絶つには、年がまだ若すぎる。p36

 

悪魔などというものが、手に入っては手放せないね。 また捕まえようというわけには行かんから。p38⇒46

 

人生を楽しみたいというのは要するに異性を楽しむということではないのか。 放蕩無頼をやりたいわけではない。p34

 

人間の行為は新婚旅行であろうと娼楼の遊蕩であろうと、その本質においては何も違ってはいないのだ。

ただ、その行為を粉飾するのに、儀式を用いるか、金銭を用いるか、それだけの違いだ。p55

 

青年時代の恋はお互い無一文でも成立する。無一文であることが、一層二人の恋を清潔にするかもしれない。

家庭を持った48歳の恋愛は、そういう訳には行かない。せめて一ヶ月10万円の、自由になる金が欲しい。

たったそれだけの金の胸算用がまだ出来ていないのだった。p226

 

金がなくては現在の悲しい恋を続けることができないのだった。

金のある男だけが、年老いてから後に美しい若い娘との恋を楽しむことが出来る。

せめて一年でも、半年でも、三ヶ月でもいいから、そういう喜びを味わってみたい。

その事によって彼の人生が変わる。彼の生涯が悔いなきものになるような気がする。p278

 

金があれば人生に於ける不可能の、95%までは可能になります。

病気も治せる、若さも取り戻せる、不幸を幸福に変えることも出来る。

金さえあれば禿頭だって治るかも知れない。p240

 

そんなに がつがつするもんじゃありません。

道楽に無駄はつきものです。

骨董あさりをすれば偽物をつかまされることもあるでしょうし、釣道楽には釣れない日もありますよ。

色恋沙汰はもちろんのこと。

百日かよってものにならない女もあれば、向こうから引っかかって来る美人もあります。果報は寝て待てというじゃないですか。p236

 

あなたも50年近い人生をわたって来て、女という女が悉くまやかし者だということはご存知でしょう。

あれで、いろんな人の手に渡った宝ですよ。金箔もだいぶ剥げています。p242

 

女を約束で縛ろうと思っても、それは無理ですよ。

女は水みたいなもので、縄でも縛れない。鉄の輪をはめても縛れない。釘で止めるわけにも行かない。石で押さえつけるわけにもいかない。p193

 

もし自分が独身だったら、どんなにのびのびと楽しい生活ができるだろうか。 経済的に自由であり、精神的に自由であり、行動もまた自由である。

今ならまだ出来るが、あと5,6年過ぎれば自分は老境にはいって、もはや自由を楽しむだけの能力を失う。やるならば今のうちだ。p75

 

浮気が出来る間に浮気して置きたい。浮気にも定年がある、先はもう永くないのだ。 p220

 

あなたの本心に訊いてみなさい。 女房持ちの律儀なつとめ人ほど可哀相なものはありません。

元はと言えば行きずりの、赤の他人に過ぎなかった女を、一旦女房と決めてしまうと、それっきり手足を縛られて、

飼い犬のように鎖につながれ、吼えることさえ自由にできない。

どこでどんな美人に会っても、ただ見るだけ、ただわくわくするだけ。 せいぜい少し口説いてみるだけ。

あげくの果てに深酒をして、心の不満を誤魔化してしまう。p60

 

すべての女性には期待を持たないほうがいいです。 女性というものは主観的な存在ですからね。

カメレオンのように相手によって色が変わります。 その女をどんな美しい色に変えるか、あなたの腕次第ですね。p102

 

何かしら痛々しくて、このまま捨て置けないような気がした。 それが恋愛の最初の兆候である。

自分に義務があるような、この娘をもっと幸福にしてやらなくてはならないような、心苦しい気持ちであった。

19の若さで酒場につとめているといえば、幸せでないにきまっている。

それを見捨てておくことが、自分の不道徳になるような気がした。p117

 

あの子は可哀相だ、と突然彼は思った。

可哀相な少女だ。生活のために酒場で働き生活のために裸を売らなくてはならない。それによって何程の金が得られるだろうか。

あの子を助けてやりたい。

いつまで続く美しさであるかは知らないが、せめてあの子に青春を楽しませてやりたい。

慾得をはなれて、異性という立場からではなしに、ただあの子の力になってやりたいと思った。

清潔な気持ちだった。汚れのない純粋な、愛情だった。隣人愛というような、報酬をもとめない気持ちだった。p160

 

彼女と話をしていると、こちらの気持ちまでも純化される。却って彼女のそばに近づくのが怖いくらいだ。

溜息が出る。胸になにかがつかえたようで、息苦しい。この年で、俺はまだこんな恋が出来るのか、と彼は思った。

終生の思い出に、この恋を遂げてみたい。そのほかに望みはない。命が10年ぐらい短くなっても惜しくはないと思った。p245

 

純化された筈の彼の心の中に、人間の慾情があふれて来る。

所詮は男の慾情にすぎないのだった。美しきものを独占したい本能だった。p246

 

人間の本当の年齢は足の力ではかるべきもんだよ。 足の丈夫な人は70、80でも、まだ容易に死なない。p81

 

日常生活の軌道から一歩外へ踏み出そうとすれば、忽ち激しい疲労に襲われる。

若い頃にはこんなことはなかった。年齢というものは抵抗できないものらしかった。p282

 

所詮、人間は生まれた時のように孤独であり、孤独のまま墳墓の土に入らなければならない。p299

儚きものは男の一生ではないか。p307