相場戦略研究所


 ジェシー・リバモアも『試し玉』を用いていた 渡辺幹夫

米国の大投機家、かのジェシー・リバモアの本「世紀の相場師ジェシー・リバモア」(角川書店)が昨年6月に出版されたが、筆者はこの本に感銘を受けた。(この良著の存在に、なんで今まで気がつかなかったのか?)これまでのリバモア氏の評価といえば、大儲けしながらも破産を繰り返したとか、不幸なピストル自殺とか、そう言う点ばかりが強調されていたように思う。しかし実際の彼は非常にオーソドックスな、優れた戦略を持つ投機家であったことが、この本を読めばわかる。氏についての本は、これまでにもなくはなかった。しかし氏の売買戦略が詳しく書かれた本として、この本は秀逸といえるのではないだろうか。

この本に感銘した点の一つはリバモア氏の売買手法に関連するが、彼が相場を行う時には「打診」から入るということ。何度も何度も小玉で相場を打診し、「いける」と判断できたら本玉を張る。たとえば次のような記述がある。

相場の流れに変化が起き始めているという自分の判断を確認するために、わたしは小口の取引で打診するという方法を取っている。「売る」にしろ「買う」にしろ、わずかな額からスタートし、自分の判断が正しいかどうか試すのだ。

リバーサル・ピボタル・ポイント(リバモア氏が認識する相場の転換ポイントのこと)が真の転換点かどうかを確認するには、どうしても腰のすわった忍耐が必要だ。わたしはその確認をおこなうためのテスト法を開発した。まず「探りを入れてみよう」というのがその基本なのだが、最終的な取引規模を頭に描きながら、小口の取引で結果を見るのだ。その結果が予想通りであれば、本格的な売買へと進んでいく。

ここまで読んで「これは「ためし玉」から相場に入る方法と同じではないか?」と思った読者は、かなりの林輝太郎先生フリークか、あるいは相場のやり方のポイントを相当につかんでいる方だろう。ここでためし玉の解説を少々しておきたい。相場をする上では、いきなり投資資金をすべて投入するのではなく最初に小枚数を建ててアンテナを張り、相場に乗れそうか、自分の出番か否かを図る売買手法が好ましい。これが「ためし玉」であり、林先生の著作の中では再三再四、様々にためし玉の重要性を唱えられている。

それにしても、かのリバモア氏が『ためし玉』と同様なことを行っていたという事実には驚かされた。やはり相場のやり方の本質は、古今東西、同じであるということだろうか。小玉の「打診」「ためし玉」から相場に入っていくという売買手法において、林先生もジェシー・リバモアも共通しているというのは、不思議な説得力を持つ。

なお参考まで、リバモア氏はまた「相場で成功した者で、休みなく取引を続けたものはいない」とも言っている。このあたりも、林先生の考えと共通している部分といえよう。

さてリバモア氏は当初、「バケットショップ」で株の売買をし成功を収めたにもかかわらずウオール街の初挑戦では大きな損失を抱えてしまったわけであるが、感銘した点のもうひとつはこの件に関連する。「バケットショップ」は、違法のいわゆる「株式の呑み屋」のことである。一見株式ブローカーであるが、実際には株の取次店ではない。客は株数を指定し目当ての株数を購入し、それと同時に店に購入価格の10%を払い込む。店は実際には株式の注文執行は行っておらず、株価が10%値下がりするとその時点でゲームは終了、客の金はすべて店のものになる。一方で値上がりし客が勝てば、その時のティッカー価格で払い戻しが行われる。

さて当時20才のリバモア氏は、バケットショップでの売買で大儲けをし颯爽とウオール街に乗り込むことになるが、この時に最初の破産に追い込まれてしまう。理由はいくつかあるが、最も興味深い点は、バケットショップでの損失は最大10%で収まるルールであった一方、ウオール街では自ら損切りしないと損が拡大してしまう状況であり、リバモア氏も当初この点に対応できなかったということだ。つまりバケットショップはそのゲームのルール上、「損小利大」が自動的に達成されるシステムを持っていたので、投資家は自ら損切りをする必要がなかったわけである。そしてこの状況は、リバモア氏にとって非常に好都合だったということだ。相場で資産を増加させる上では、売買において「損小利大」の達成がカギを握るということについて再認識させられる話である。

それにしても「損小利大」が自動的に達成されるシステムを持ている証券会社とは、投資家の立場としては具合が良い。「もし日本にバケットショップ的な証券会社が一般的にあれば」と思ってしまうのは、私だけだろうか(昔はあったように聞くが…もちろん、違法行為というのであれば問題だが…・)。しかし現実にはそのような好都合な証券会社は存在しないので、「バケットショップの10%ルール状態」(10%は3%でも5%でも良いが)を投資家自らが作り出すことが、売買を有利に展開していくカギになる。現段階でバケットショップの10%ルール状態に最も近いのは、あらかじめ手仕舞いのための逆指値注文を出しておくことを恒常化するということになるだろう。

現在、株式売買の逆指値は某ネット証券1社でしか行っていないようである。他の証券会社も逆指値が出来るよう、システム開発をして欲しいものである。

P.S. ジェシー・リバモアは63歳でピストル自殺したが、これは相場に失敗したからではない。相場では成功を収め資産も名誉も得られたが、投機に夢中になっている間に家庭環境が破綻してしまい、絶望の淵に追いやられたことが原因である。



相場師ジェシー・リバモア

人の心はいついの世も変わらず、変わるのは人々の顔ぶれであり、

財布の中身であり、カモにされる連中であり、株価を操ろうとする連中であり、 戦争であり、天災であり、技術である。

しかし、そうした要素がいかに変化しようと、株式市場は変わらない。

人の心が変わらず、人の心こそが市場を動かすとすれば、市場もまたいつの世も変わらないのだ。

市場の動きに理屈はない。経済学で動くわけでもないし、理論に従って動くものでもない。

市場を動かすのは人間の感情にほかならず、なぜかといえば、人々はなし得るほとんどすべてのことを市場に持ち込むからだ。


こころを殺して相場に挑んだ男

1929年世界大恐慌を予測し、暴落のさなかに一人勝ちをおさめた伝説の相場師。

その華麗なる生涯と、類い希な相場眼と強靱な精神力が生んだ「投資の鉄則」は、世紀を超えてウォール街に息づいている。天国と地獄を見た男の生涯を劇的に描く!

株式売買のタイミングを計るピボタル・ポイント理論、資金管理の法則、相場の心理学などをまとめた【リバモア 投資の鉄則】付。

 リチャード・スミッテン/藤本直 角川書店 四六判 419頁 2001年6月発売 2,200円



 



相場戦略研究所